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心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

瑞穂舞。神に捧げる、神を呼ぶゆらぎ。

瑞穂舞



指が、まるで生きているようだった。

まるで別の生き物のように動く指先。

指の動きに、腕のなめらかさに、

水を、波を、揺れる水面を見る。



舞を見に来ているのに


舞そのものよりも


その不思議な指の動きに魅了された。


緩やかに流れ、沈み、激流となり、

緩やかに水底に沈んでいく命の源。


水はその指先から生まれて会場を満たし、


その水は生命の輝きを表しているようで。


幕間を経て。


その指先は、胎児の手になった。


舞台の上は羊水で満たされて。


わたしたちは子宮の中を漂った。


舞台の上で舞う彼女の姿は見えず、

指だけが、腕だけが、影の中で動く。

それはまさに、羊水の中を思わせて。

わたしたちは自分がいる場所を見失った。

静かに、深く、深く、かつていた場所を揺蕩う。


その指先に連れられて、

羊水の中へ戻っていくようだった。


彼女の舞は呼び水だ。


この舞台の上に、違う世界を呼び寄せる。


彼女が舞う時、舞台が消える。


それは、神前で舞うそれとも違って。


舞うことにより、

直接この場に何者かを呼び寄せるような。


彼女が、彼女たちが舞う時、


舞台は神域となった。


彼女たちは、その舞で神を呼ぶ。


彼女たちの舞は、祭で、祝詞だ。


神を寿ぎ神を祝う。


舞うのは彼女であり彼女でないもの。


彼女はあちらとこちらの、あわいに在る。


彼女が舞うその間、個としての彼女は消える。


彼女が宿す何者かが、彼女を、その場を染めていく。


彼女から個が消えていくのと時を同じくして、


わたしたちもこの場から彼岸へ遊離していく。


ただ、劇場で舞を見ているだけなのに。


まるでどこか違う世界を漂っているような、


不思議な感覚だけがその身を満たしていく。


そんな、不思議な、清らかな時間のなかで。


ただ、時を忘れてその揺らぎに浸った時間。


わたしたちは何を見たのだろうか。

わたしたちは何を感じたのだろうか。



それは、きっと、いにしえの神に捧げる祈りのうた。



かなり時間が経っての感想となりましたが、
本当に素晴らしい時間を過ごさせてもらいました。

この文章を書きながら、
あの時間に戻っていくようでした。

不思議で、どこか神々しくもあるような、神の舞。

写真もなく、文章で何がどこまで
伝わるかはわかりませんが、
あの素晴らしい時間を頂いたことへの
感謝を綴っておきたいと思って
今更ながら書いています。

瑞穂舞