心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

宮沢賢治「雁の童子」が紡ぎ出す、夢と現(うつつ)の間(あわい)の世界。

宮沢賢治「雁の童子」

 

 

ゆめか、うつつか。

 

ほんとか、うそか。

 

 

 

すべてがあいまいで、

 

すべてをつつみこむ。

 

 

 

そんな、時間の中で、

 

語られるものがたり。

 

舞い踊る、ひとの姿。

 

紡がれる、笛の音色。

 

 

 

 

そこにあったのは、宇宙、だった。

 

 

すべてが生まれ、すべてが死にゆく。

 

 

すべてがそこにあり、すべてがない。

 

 

常に生まれ、常に消えゆく、すべて。

 

 

そのすべての可能性が漂うあわいに。

 

 

ゆるやかに、いのちをまとって舞う、

 

 

そのひとの手からいのちが生まれた。

 

 

そのひとの手によりいのちが消えた。

 

 

包み込む両手に、

 

 

確かにいのちが生まれる音を聴き、

 

 

振り下ろす手に、

 

 

いのちが終わる断絶の気配を感じ。

 

 

その、生まれ消えゆくいのちの中で。

 

 

淡々と、語られる不思議な童子の物語。

 

すべては伝え聴いた、あるともしれぬ物語。

 

物語は、何が起こるでもなく日々をただ綴る。

 

不思議な童子と、その童子をわが子に迎え入れた、

 

ひとりの男と、その妻の。日々の断片を、淡々と。

 

 

 

これは物語。

 

けれど、その物語は、

 

その世界の中の誰かから伝え聞いたもの。

 

その世界の中ですら、その物語の真実はあいまいで。

 

誰かがひとこと、「ちがう話を伝え聞いた」と言えば。

 

その瞬間に消えてなくなるような、そんな、儚い物語。

 

 

存在と不存在のあわいの中で。

 

 

物語は紡がれ、舞いは流れ、笛が奏でられる。

 

 

そこに、あるのか、ないのか。

 

 

自分はどこにいて、何を見ているのか。

 

 

何を、聴いているのか。感じているのか。

 

 

それすらも、あいまいになっていく、その時間。

 

 

まるで神に捧げる祈りのような澄んだ笛の音と、

 

 

祝詞がはらはらと舞うような、やわらかな舞と。

 

 

それらが、ゆらゆらと出会い合わさり紡がれて。

 

 

さらに、あちらとこちらのあわいを埋めてゆく。

 

 

 

天よ、地よ。

 

 

空よ、海よ。

 

 

虚よ、実よ。

 

 

 

すべては繋がりすべては同じ。

 

 

 

天に昇れば地に潜り、

 

 

空を行けば海に沈み、

 

 

虚を貫けば実となる。

 

 

 

そんな、時間に、空間に。

 

 

ただ、たゆたうひとときだった。

 

 

宮沢賢治の「雁の童子」を聴いたのは初めてだった。

正直なところ、この物語が何を伝えようとしているのか、何を綴っているのかは、わたしにはわからなかった。

わたしには、あの物語を読み解くだけの蓄積がまだ、ない。

そして、この日の朗読と、舞いと、笛の音とが創り出したあの時間と空間も、わたしはよく理解できてはいない。自分の中で咀嚼できてはいない。

 

わたしの理解の範疇を超えたものを感じて聴いたのだと思う。

 

だからこそ、すぐにあの時間を、空間を言葉にすることが出来なかった。

 

ようやく浮かんだ言葉たちも、茫洋としていて要領を得ないものばかり。

 

まだ、わたしにはあれだけのものを感じて咀嚼して表現するだけの、蓄積が、人としての厚みがないのだと思う。

 

これは、「武士道」を読んだ時の感覚と似ている。

 

あまりにも、自分の中で咀嚼できず、言葉が浮かんでこなかった。

 

 

言葉は、「わたし」という人間の上澄みだ。

 

 

「わたし」の中に降り積もっているもの以上のものは言葉にならない。

 

 

今回のこの経験は、わたしの力量が、経験が、蓄積が足りないことを教えてくれた。

 

まだ、わたしが知らない世界が、理解できない概念が、受け取れないものがあるのだと。

 

 

わたしは、「言葉にならない」という出来事があることを喜ぶ。

 

わたしは、まだ、先へ行ける。まだ、見ることの出来る世界がある。

 

 

それは、可能性ということだから。

 

 

素晴らしい時間を、空間を、場を頂いたこと、

 

 

わたし自身にとってもすばらしい気付きを頂けたこと、

 

 

心から、心から感謝します。

 

 

新年が明けて、この場に立ち会うことができたことを幸福に思います。

 

 

ありがとうございます。





はたりえこ

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雲龍

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