心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

杉本博司 「海景」と「劇場」


彼の代表作「海景」は彼の原初の記憶。

彼の代表作「劇場」は彼の原初の記憶。


彼が幼い頃に衝撃を受け、そして生涯忘れ得ないその瞬間を、様々な形で表現している。

彼は、探している。

決してもう一度見ることのできない、

決してもう一度手にすることのできない、


あの、

心を奪われた、


原初の記憶を。



彼は知っている。


それは決して手には入らないのだと。


あの幼き頃のあの一瞬に、永遠に喪われてしまったのだと。



だからこそ、焦がれる。


繰り返し、


繰り返し、



撮り続けることで、


あの一瞬の断片だけでも、


ほんの少しの欠片だけでも、



手にすることが出来るのではないか、と。



どこかで信じているからだ。



そしてそれは彼がこの世を去るまで続く。



彼の「海景」「劇場」が世の人々に受け入れられ、賞賛されたのは、それが彼の原初の記憶だったからだ。


わたしたちは、彼の作品を通して自分の原初の記憶を視る。


わたしたちは、常に原初の記憶を探している。



自分が何者でもなく、自分自身でしかありえなかったあの頃の記憶を。



わたしたちは、この世に生まれ出でて、多くのものを学び、経験し、そして。

それを自ら剥ぎ取り、原初の状態に戻っていこうとする。



生きるとは、多くのものを得て、多くのものを手放していくこと。


その裡に、かつて無自覚に抱いていた原初の記憶を、より明確に抱き締めてゆく。



まるで、螺旋階段をいつまでも登っていくように。


わたしたちは、同じ場所を巡り巡ってゆく。