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心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

千年のミズナラの声を聴く。わたしたちはきっと、彼らに守られているのだ。

千年のミズナラ

 

山道をひたすら進み広大な草原を越えたその先の。

草原の終わりの竹やぶのすぐそばに、彼女はいた。

静かに、優雅にその手を広げてわたしたちを迎え入れてくれるミズナラ
千年という永きに渡り、この地を守ってきた守り神。

彼女の姿を見た瞬間、涙が溢れそうになった。

わたしはこの地に迎え入れてもらえたのだ、と。 
そんな感覚が心のどこかから自然と沸きあがる。

そんな、彼女に対する感謝と、彼女に会わせてもらえた奇跡に心が震える。

この地に迎え入れられなければ、彼女と出会うことは出来なかった、とそう思う。

樹の根は、枝が広がるその十倍の範囲に張り巡らされているという。

彼女に向かおうとして草原に足を踏み入れた時点で、わたしたちは彼女の領域に入った。

彼女は人が近づくことを知り、どう彼らを迎え入れようかと考えていたはず。

ただ凄い樹を見た、とそう片付けてしまうのは簡単だけど。

彼女の裡にあるのは千年の歴史。
彼女と会うことは、彼女に触れることは、千年の歴史と触れること。
その時間から沸き起こるものを、彼女と対峙するその時間に、わたしたちはきっともらっているのだ。

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彼女にたどり着くまでに広がる草原は、人間が牧草のために切り開いた跡。

どこまでも同じ緑の草が一面に広がるその様は、均一で美しく、けれどそこに多様性はない。
それが、人が作りあげた景色だという証。

わたしたちには、均整の取れたものを美しいと感じる性質がある。
顔立ちひとつをとってもそう。最も美しい顔立ちは、すべての人の平均をとった、均整の取れた顔立ちである、という。

けれど、なぜそれを美しいと感じるか。

それはきっと、自然界に存在しない奇跡だから。

その奇跡を、人の手で作ることは、本来不自然なことなのだ。

牧草のために切り開かれたその場所は、確かにその当時の人の命を繋いだ。
けれど、彼らはその先の自然を、子どもたちの住む世界を考えるところまでは至らなかった。

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安藤さんがこの地の歴史と行く先を語る。


牧草地は必要とされる以上に切り開かれ、豊富に余ったその場所は、シカたちの餌場となった。春から秋にかけて提供される、最高の食事。
彼らはそれを食べ、子どもを育て、そうして家族を増やしていった。

けれど、冬になれば牧草地は雪に覆われる。

飢えた彼らは樹々の肌を食み、樹々は養分を吸い上げることが出来ずに枯れてゆく。そうして、森はさらに失われていった。

危機感を覚えた人間は、狩猟の制限を緩和してシカを狩った。狩られたシカは野に放置され、冬眠から目覚めたクマたちの食事になる。

本来、クマは肉食ではない。クマは山菜を主食とし、極たまに肉を食べる。
そんなクマが、冬眠から目覚めて最初に食べるのがシカの肉。そして、それはあちこちに豊富に存在する。
それは、彼らの生態に、性格に、行動に、どのような影響を与えるだろうか。


その行く末はまだわからない。けれど、彼らの生態に影響を与えることは間違いないだろう。

そんな風に、彼女を、ミズナラを育んできた大切な森を伐採し、生態系を破壊してゆくわたしたちを、彼女は見捨てずにここにいることを選択してくれた。

彼女に会い、彼女に触れてそんなことを感じた。

草原の終わり、そのすぐ先に彼女がいたからだ。

おそらく、彼女は伐採されることを選択することも出来たはず。

けれど、その手前で彼女は伐採の手を止めさせた。

それは、彼女がこの地を守ると決めたということ。

彼女の家族同然の樹々が切り倒され、森が喪われても、それでも彼女はこの地を、ヒトを見捨てることはなかった。

たった一本の樹。そうかもしれない。
樹に意思はない。そうかもしれない。

けれど、伐採が千年のミズナラのすぐ手前で止まったこと。
昔の人々が、神木として永く生きる古木を崇め奉ったこと。
それにはきっと意味がある。


彼女がこの地から喪われることは、この地の終わりの始まり。


そんなことを思う。


彼女に触れたとき、自然に涙があふれた。
この地に張り巡らされた彼女の根を想う。
この地を包み込み守る彼女の愛の深さに、
ただただ、ひたすらに感謝したくなった。

この日、ここに招き入れてくれたことも。
今日この時に、出会わせてくれたことも。


そのすべてに。
ただ感謝の気持ちが湧いて溢れたのに驚く。


そんな、かけがえのない、素晴らしい時間をもらえたこの日のこの経験を、きっとわたしはわすれることはないだろう。

姿かたちを忘れてしまったとしても、この日この時感じた不思議な感覚を。


今日も奇跡の時間をありがとうございます。

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hickorywind
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