心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

2キロ先のハヤブサ。自分だけが見せられる世界を、どんな時でも必ず見せる。本物のプロの姿を見た日。

わたしたちはハヤブサを探していた。

双眼鏡を使って、空のあちこちを探すけれど見つからない。


その時、ネイチャーガイドの安藤誠さんが世界で最高峰のスコープをセットして、覗いてみて、と言う。


ハヤブサがそこに映っているんだ!とワクワクして覗く。


けれど、スコープに映っていたのは電柱。


それだけだった。


同時にガイドを受けていた、もうひとりも同じだった。

わからない。電柱が並んでる様子しか。それを伝えると。


安藤さんが、そのスコープのぎりぎりいっぱいまで倍率を上げてくれた。


もう一度、覗く。


 驚くべきことに。


並んだ電柱のその右端の一番上。


そこに止まっていたのは、


ハヤブサだった。


驚愕、という言葉だけでは到底足りない。

世界で最高のスコープの、ぎりぎりいっぱいまで倍率を上げて、ようやくその姿を捉えられる。


それを、見せるのだ。


その距離、およそ2km。


肉眼では、そこに電柱があることすらわからない。


道具の限界を、見せる。


それが、彼の元に人がやって来る理由。

製造メーカーが、彼と仕事をする理由。


彼の元でしか、見ることの出来ない世界がある。

彼と共にいなければ、出会えない奇跡が、ある。


だから、世界に名だたるプロのフォトグラファーが、バードウォッチャーが何度も何度も繰り返し、彼の元を訪れるのだ。


同じ時間に同じ場所にいたとしても、彼と共にいるかいないかで、その時見える世界はまったく違う。

彼でなければ、その場所でハヤブサを見つけることは出来なかっただろう。


そこでハヤブサが見れるかどうかで、そこで過ごした時間の価値は、まったく違うものになる。


どこに行くかではない。

だれと共に行くか、だ。


素晴らしい奇跡の場所を訪れて、そこで心震える、心から感動する、そんな時間を過ごせるかどうか、は。


もう宿を出た時点から決まっている。

どれだけ素晴らしいガイドと共に行くか。

それだけで、見れる世界は決まっているのだ。


彼の目もわたしたちと同じ。

2km先が見えているわけでは、もちろんない。

彼にそれを捉えさせるのは、経験と、鍛錬と、執念。


彼はハヤブサを捉えられる理由を、「注意深く観察すること」と言ったけれど。


それはどれほどのレベルのことを指しているのだろうかと思う。


この地を数えきれないほどに、気が遠くなるほどに、何度も何度も訪れて。

ハヤブサの習性や個性はもちろん、その地の地形や天候、その地の動物たちの関係性、その場所での遭遇率、遭遇ポイント、それらすべてを繰り返し頭と体に叩き込み。


仮説と検証を繰り返し、諦めずに、何度も、何時まででも、探し続ける。本当に本当にささやかな手がかりもきっかけも見逃さず、そのあまりにも細い糸口から、手繰り寄せる。


きっと、そうしてようやく得られるものだ。


彼のこの地でのハヤブサとの遭遇率は100%。


何回も、何十回もこの地を訪れて、そうしてハヤブサに出会うことなくこの地を去る人もいるだろう。


驚異としか、表現できない確率。


彼と共に行くかどうか。


それで奇跡との遭遇率が変わる。


何回もこの地を訪れることが出来れば、遭遇の可能性は高まるかもしれない。

でも、この地を訪れることができるのは一生に一度、この日しかない人もいる。

一生のうちにこの日しかない、もう二度とこの地を訪れることがないその人に。


何を見せるか。

何を見せられるか。


とても良い時間だったけれど、やっぱりあれが見たかったな。と思わせるのか。


あれが見れるなんて、あの感動を、一生このことは忘れない、と思わせるのか。


その人のもう二度と訪れない奇跡の時間に、

さらに忘れられない奇跡の出逢いを重ねる。


それが本物のネイチャーガイドの仕事なのか、と。


本物の仕事、究極の仕事というものを見せてもらった。

彼にしか出来ないこと。彼にしか、見せられない世界。


そして、最も驚くべきは、たとえどんな状況でも見せる、そのクオリティの高さ。


プロとはそういうもの。

天候も状況もアクシデントも理由にしない。


たとえどんなコンディションにあったとしても、成果を出すこと。出し続けること。


千変万化する、まったく予測不能で制御不能な自然を相手にそれを成し遂げること。


それが、いかに難しいことか。いかに凄いことか。


ガイドの仕事をしたことのない自分ですらわかる。


ハヤブサを見れた奇跡と嬉しさは、もちろんわたしの人生の中に深く刻まれたけれど、それ以上に深く刻まれ感動したのは、その本物のプロのあり方。


改めて、わたしはなんて幸福なのだろうと思った。

安藤誠さんと出会えたこと。その奇跡に、改めて、改めて、深く深く感謝した。


まだ、1日目。

奇跡の時間はこれからも続く。

北海道のこの地に戻って来れたことへの感謝とこの上ない幸せ。


今日はどんな奇跡の瞬間が待っているだろうか。


9月1日。

一年の後半の最初の日。そして新月

最高の、始まりだ。


hickorywind

http://hickorywind.jp

f:id:kayamy:20160902060025j:plain