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心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

えんとつ町のプペル〜西野亮廣独演会2016 8月13日夜〜

えんとつ町のプペルの朗読は、他とは群を抜いて素晴らしかった。

役の演じ分けも、思いの込め方も、抑揚も、なにもかもすべて。


この日最後の読み聞かせ、えんとつ町のプペルは世界初の分業制の絵本。

絵本を一人で作るなんて、誰が決めた?
大人数で作って利益が出ないなんて、誰が決めた?

得意分野はひとそれぞれ。
物語を作るひと、煙突を描く人、雲を描く人…絵本を作ると言ったとしても、得意分野はひとそれぞれ。
ならそのひとりひとりが持つ、最高の分野を集めてまとめて練り上げれば、最高のものができるんじゃないか。

常識なんて、ぶっとばせ。
最高のものができるなら。
面白いものはやってみる。

構想からは4年半。
遂にこの秋に完成する。

西野さんは、町を作る!と宣言して、みんなに馬鹿にされて笑われながら、そんなことはなんのその。
実際に埼玉に井戸を掘るところから始めてほんとにわいわい町をみんなで作っているのだけれど。

わたしは、この「えんとつ町のプペル」も町になるんじゃないかと思う。

この絵本に、何十人の、何百人の人が関わってるかなんて知らないけれど。
それだけのひとが、ひとりひとり、自分の中に「えんとつ町」を持っているのだ。
ひとりひとりが全力で、自分にとって最高の形で「えんとつ町」を作り上げた。

この絵本を作っている最中に、えんとつ町はひとりひとりの心の中に、確かに作り上げられていったのだ。

本来ならば、絵本が完成すればそれでチームは解散。プロジェクトってそういうもの。
でも、そこでは終わらない、とわたしは思う。

これだけ多くの人が、これだけ深く自分の中に築き上げたえんとつ町。その世界を絵本が出来たからって終わらせるなんて、もったいない。

えんとつ町は、物語に必要な部分だけではなく、本当に存在してもおかしくないほど町として細部まで作り上げられている。
何をどう展開するにしても、そこまで練りこまれて作り込まれていたら、動きやすい。

映画になるのか世界に出るのか本当に町を作ってしまうのか、どう展開するのかはわからないけれど。
プペルの世界は、もっともっと、広がっていく。

秋に発売される絵本は、そんなえんとつ町へのパスポートなのかもしれない。



この秋発売予定の絵本のネタバレありです。ご注意を。










えんとつ町のプペル





えんとつ町は、名前のとおりに煙突だらけ。
数え切れない煙突からは、毎日煙がもっくもく。
分厚い煙に覆われて、その向こうなんて見えやしない。


ある日ある時、空からの落とし物。

どっくん、どっくんと波打つ心臓。


心臓が、落ちて着地したのはゴミ山で。

ゴミを集めて出来上がったはゴミ人間。


町はちょうどハロウィンで。

あふれかえったおばけたち。

夜が終われば魔法は解けて。
みんなはもとの、姿に戻る。

戻れないのはゴミ人間。
手の平を返す仲間たち。

きたないからだのゴミ人間。
ひどいにおいの、ゴミ人間。

だれも彼を受け入れない。
ひとりぼっちのゴミ人間。

弾かれ詰られ傷つけられて。
ただいるだけで、疎まれる。

同じかたちじゃないからね。
同じにおいじゃないからね。

心は同じ人間なのに。
見られるのは体だけ。

そんなプペルに名前をくれて、遊んでくれた、ひとりの少年。ルビッチ。

毎日体を洗ってくれて、
臭い匂いも笑い飛ばして。
楽しく嬉しい幸せな日々。

けれどそのせいで彼は苛められ。
プペルの元から、離れていった。




ある日プペルがやってきた。

別れたあの時よりも汚くて、
別れたあの時よりも酷い匂いで、
別れたあの時よりも、ぼろぼろだった。


僕の命が尽きる前に、さあ、早く。


プペルに連れられ辿り着いたは海岸で。
そこにあったは無数の風船、大きな舟。


以前プペルに話した父の話。


分厚い雲のその先に光輝く星がある。

誰ひとりとして信じてはくれなくて。
誰もが嘘つきだと父を蔑み否定した。

そんな父が航海の果てに亡くなった、
その時ですら、自業自得と嘲笑われ。
けれど、母は父のことを、信じてた。


もちろん、ルビッチも。


空高く舞い上がる舟。
厚い厚い雲のその先を抜けた時。


確かに、そこには光輝く星の海があった。
父の言葉は本当だった。父が見た景色は真実だった。


光輝く星々と、光輝く父の姿がそこにはあった。


その時プペルが自分の頭から取り出したのはひとつのペンダント。
ルビッチがかつて失くしてしまった父とのただひひとつの思い出。


ルビッチと別れてから、ずっとずっと探してた。
ゴミ山を何日も何日も探しても見つからなくて。

その時にね、ルビッチの言葉を思い出したんだ。

ー懐かしい匂いがするんだ。

ここにあった。ここにあったんだよ。
僕の頭の中に。

耳のゴミが取れた時、僕の耳は聴こえなくなった。
このペンダントを取ったら、僕の命は尽きるだろう。

でも、これは君のものだ。
君の、大切な、思い出だ。


だから、君に返すよ。






いいやプペル。
それはきみが持っていて。

ぼくがずっときみのそばにいれば、
いつでもそのペンダントを見ることができるから。


プペルが照れたように鼻の下をこする。
そのしぐさを、ルビッチは知っていた。


ー懐かしい匂いがするんだ。


ああ、なぜ、気づかなかったんだろう。


そうか。きみは。







来てくれたんだね、とうさん。







えんとつ町のプペルは、この現代へのオマージュだ。

どんなに煌めくものをその内に秘めていても。
どんなに美しい未来をその先に見ていても。

そんなことは斟酌されず、誰もが判断するのは今の姿。

今が汚らしくて無様でみっともないなら、それを見て非難し否定し排除する。

けれど彼らが本当はどこを見ているか、何を考えているかを知っているか。それを見ようとしているか。

ゴミをあさっているその姿を、ゴミにまみれたその姿を、それだけを見て、何を知った気になっているのだろう。何を判断できると思っているのだろう。

そのゴミ山の中に、世界を救う何かがあるのかもしれない。その姿に、何かの意味があるのかもしれない。
もちろん、ないのかもしれない。けれど、それはその人に触れてみなければわからない。

わたしたちは、怠けてる。
誰かを知ろうとすることを。
誰かと関わろうとすることを。

誰かときちんと向き合って、その人を知ろうとすることは大変だ。
外側だけ見て判断して、思考停止したほうが、どんなにか楽だろう。

でも、それじゃ駄目なんだ。

その先にはドキドキする未来も、ワクワクする明日も、素敵なひとたちもいない。

そして、そうやってわたしたちが怠ければ怠けるほど、それらは遠ざかっていく。

わたしたちは、自分たち自身の手で、面白くてワクワクする明日を遠ざけてるんだ。


わたしはきちんと、「その人」を見ているだろうか。
外側ではなくて、その人の本質を、願いを、想いを見ているだろうか。
そんなことを問いかけられているような気がした。


そして、えんとつ町のプペルは、ひとりの男が父親になる物語。

オルゴールワールドも、Zip&Candyも、愛する人への物語だった。
人生をかけて、なによりも大切なひとにすべてをささげる物語。

カンパネラは、もう二度と会えないヨナヨナとの、あの日の約束を果たすために、あの日からの自分の人生のすべてを捧げた。

Zipは、これまでの、これからの、Candyとの思い出を手放すというかたちで、自分の人生のすべての時間を、彼女に捧げた。

そこには、父も母も登場せず、ただ一対の男女がいた。

プペルにはそれがない。

プペルの世界にいるのは父と、母と、子。
そこにあるのはひとつの家族の形だった。

何も覚えていない、何も持っていない、そんなところから始まる物語。

父と子が、心を繋げる物語。

ただ、わが子のために無様でもみっともなくても必死で行動する姿が、そこにはあった。

母は、子どもが生まれた瞬間に母になるけれど、父は、子どもとの関わりの中で父になっていくのだと。

例えどんなになじられ否定され攻撃されたとしても。それを辛いと苦しいと、息子の前では伝えない。

例え息子に手酷く否定されたとしても、それに腹を立て怒ることはない。もちろん嫌いになるなんて。


そして。


例え誰にも理解されず誰一人として信じてくれなくても。自分の信じた光を息子に伝える。

どんなにみっともなくても滑稽でも、それでも息子に伝えるのは、光を信じた父親の姿。

夢物語でもなんでもない。
嘘つきでもほら吹きでもない。

お前の父は、美しい光を見た。

誰一人として信じなくても、お前の父は真実、美しい光を見たのだと。それを信じていたのだと。

この光の見えぬ、この先に光があるなどと到底信じられぬ分厚い煙のその先に、煌めく美しい光があると信じて、そうして見つけたのだ。

例え誰が信じてくれなくても。
今も誰も認めることはないとしても。
自分が見ている光を信じ、行動し続けた。

その背中を見せるのが、父親なのかもしれない。

夢を、希望を見せるのが、父親なのかもしれない。

これからお前が進もうとする道の先で。

誰もお前を信じなかったとしても、
ただ罵倒するだけだったとしても。

そんなことを気にしなくていい。
そんなことにくじけなくていい。

周りの声に負けず屈することもなく、
前に進み続けた、自分を信じ続けた、

その、生きざまを。

見せるのが、父親なのかもしれない。



光はある。
星はある。

何も見えなくても。
誰も信じなくても。



それは、父から子に贈られる応援歌。

そして。
これから誰も見たことのない景色に踏み出すひとたちすべてへの贈り物だ。


えんとつ町のプペルのご予約はこちらから。


ほか二冊の読み聞かせの感想はこちらから。

オルゴールワールド 〜西野亮廣独演会2016 8月13日夜〜

Zip & Candy 〜西野亮廣独演会2016  8月13日 夜公演〜 

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枯葉も、美しいよ。