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心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

ひとつの物語の終わり。それを内包して始まる次の物語。

遠藤夕幻作品展「あなたが いたから できたこと」が幕を閉じました。


作品展のオープニングパーティーで初めて彼に会い。

彼のあり方、世界観に惹かれ。

この出会いを大切にしたいと、そう思った。


この作品展は、夕幻さんの人生そのものだと思ったから、どうしても最後のこの時にその場にいたかった。

夕幻さんの人生におけるひとつの物語が終わり、その物語ごと内包して次の物語が始まるだろうその時に。


立ち会って、送り出したかったのだ。


夕幻さんと出会ったのはたった半月前の話なのに、そんなことを感じる自分に驚いたけれど。


クロージングパーティーに寄り添うのは、夕幻さんにとっての熊野の家族。


三重県熊野市にある天女座のふたり。


天を思わせるような、しなやかで、やさしい紫帆さん。

山を思わせるような、どっしりと、穏やかな鷹光さん。


彼女たちの音楽は即興で奏でられる、その時限りの煌めき。

その場の空気を、場にいるひとりひとりを感じて、そこに舞い降りてきたイメージを、そのまま指に、息に乗せて奏でる。


一時の迷いも逡巡も思考もなく、奏でられる豊かで美しい音の連なり。

伝えたことばが、そのまま曲となって空間を満たすその時間は、まるで夢の中の出来事のようだった。


そんな夢の音楽と協奏する、夕幻さんの書。

即興のテーマは「あなたが いたから できたこと」。


紫帆さんの指が鍵盤をすべる。

鷹光さんの息が音を紡ぎ出す。


かろやかで、うつくしく、やさしい響きが場を満たす。


硯を置き、墨を注ぐ。深く礼をし、ただただ一心に手を合わせる。

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夕幻さんが熊野に半分移住するのは硯を作るため。


今、自分の書を構成しているものたち。

それらを、自らひとつひとつ作り上げていく。


硯を彫り、筆を作り、紙を漉いて。

そして、書を自分そのものにする。


夕幻さんは、書を構成するすべてを無添加にしていくつもりなのだ。

純粋な、自分そのものに。


無添加書道が、次のステージに進む。

硯を創り上げるには、10年の歳月が必要だという。

自分そのものである、硯を、筆を、紙を使って、まったき濁りのない純粋な自分そのもので、創り上げる書。


それは、どのような世界を見せてくれるのだろう。


使う道具を無添加にしていく中で、

彼自身も、より一層彼そのものに、

一層無添加になってゆくのだろう。


無添加書道の真髄。

その辿り着く場所。


その世界が立ち現れるその瞬間、その場にいたいと、そう思う。


夕幻さんのお母さんは、1年前の7月にこの世を去った。

その一ヶ月後、夕幻さんと美智子さんは天女座を訪れる。


どうしても、志帆さんと鷹光さんに会いたい。


天女座に、いきたい。

あのふたりに、あの空間にふれたい。

自分がまるごと受け入れられるあの場所に。


そんな夕幻さんに、鷹光さんは、この場所を、天女座をやるよ、とぽんと言う。


家族になろう。

家族になればいいよ。


血のつながりだけが家族じゃない。

自分たちが家族だって思えば家族だ。


母を喪った夕幻さんにとって、紫帆さんと、鷹光さんの言葉がどれほどの救いだったか。

どれほど、彼の心をあたたかく支えたか。


喪ったと思っていたものはここにあった。

喪ったと思っていたものは、違う形で自分の元に還ってきた。


紫帆さんと鷹光さんの、夕幻さんと美智子さんを見る目が優しくて、慈愛に満ちていて。

ただただ、その場をあたたかく包む。


ああ、ここにいるのは家族だ、とそう思った。

たとえ、世間が言うそれとは違ってはいても。


間違いなく、家族の姿がそこにあった。


夕幻さんの筆が紙の上を滑る。

墨が置かれ、筆が離れ、そしてまた墨が置かれる。


それを三度ほど見つめて、

わたしは彼が何を書こうとしているかを知った。


「家族」


わたしがこの空間から受け取った言葉。

それが今まさに綴られようとしていた。


こんなことがあるだろうか。


ただただ、涙があふれた。


ほかの作品に比べてたどたどしく、どこかとまどいも含むその書が出来上がるのを見つめる。


これから、今まさに家族になろうとする、そのことそのものに対する感謝と、どこかに残る照れ。


まるで初めて父になる日のような。


そんな、嬉しさとくすぐったさと。


そして、未来を感じる豊かな余白。


もともと、個展の最後に「あなたはここにどんな書を書きますか」という問いとともに飾られる予定だった、真っ白なキャンバス。


すでに作品として完成していたその上に、筆を滑らせる。


家族として完成していたその上に、新しく作られる家族の形。


飾られることがなかった真っ白な作品は、それを伝えたかったような気がした。

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これは、家族の物語だった。


喪った母との時間。

取り戻した父との時間。

そして。

新たに誕生した、家族。


なんという場に立ち会わせてもらったのだろうと思う。


紫帆さんと鷹光さんは、13日に関東で行われるイベントがあったからこそ、この日この場所に立つことになった。

彼女らが最後を飾ることは、最初から決まっていたわけではなかった。


でも、この個展を、この物語を閉じるのは、次に繋ぐのはこの二人でなければありえなかったとそう思う。


本当に、この場にいることが出来てよかった。

彼らと繋がれてよかった。


あの時、わたしが友人の誘いにたまたま頷いていなければ。たまたま予定がなくならなければ。わたしはあの始まりの日にあの場所にすらいなかった。


だから人生は面白い。


いろんな偶然の連続でここにいるんだなあと改めて思う。


彼とご縁を繋いでくれて本当に本当にありがとう。

あの誘いがなければ、これまでの感動の時間はなかった。そんな素敵な繋がりをもたらしてくれる本当に素敵で心から尊敬している人。改めて、本当に大好きだなあって思う。


本当に、本当に、素晴らしい、こころふるえる時間でした。

こころから、ありがとうございます。

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無添加書道 遠藤夕幻

http://mutenkashodo.blog.fc2.com


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くまの 天女座

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