心の景色の旅に出る。

こころふるえるだれかとの時間、そのものの中にあるだれかの想い、だれかの、じぶんのこころを旅したその軌跡を綴っています。

自分自身を無添加にしていく。

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無添加書道。

その言葉を聞いたとき、意味がわからなかった。
でも、彼の書く文字と、誘ってくれた友人の直感を信じて、彼のことを何も知らずに、知る人もほとんどいない個展開催の祝いの場に足を運んだ。

そこで、わたしは彼の書に込められた想いを、彼の生き様を見た。

ひとりひとりを思い浮かべながら、一枚一枚、心を込めて、この場に集ってくれるひとたちの名前を綴る。
書家の彼にとって、その一枚一枚は、ただの名札ではなく、唯一無二の作品。

それを、惜しみなく分け与える。
大切なひとたちにとって、この場が楽しく、心地よい、そして素敵なご縁が繋がる時間になるよう願いを込めて。

中央に立った彼は、会場をぐるりと見渡し、来てくれたひとりひとりと視線を合わせるようにして、大切な時間を使ってこの場に来てくれたことに感謝し、心から嬉しく思っていると、満面の笑みを浮かべた。

会場の、ひとりひとりを感じて、ひとりひとりの存在を受け取って、そうして書に向かう。

無添加書道とは、自分に添えられたものを、ひとつ残らず手放すこと。

ひとは、まっさらの、なにひとつ身にまとわない状態でこの世に生まれてくる。
そして、歳を重ねていくとともに、たくさんのものを、その身にまとっていく。

そのひとつひとつを手放し、何も加えられていない、純粋な自分自身に戻ってゆく。
自分の中にある、素直な想いと願い。それだけに身を委ね、書に向き合う。
ただ、心がおもむくままに、身体がおもむくままに、筆をすべらせる。

それが、「無添加」ということなのだ。

夕幻さんの書が始まる。
凛とした静かな空気が彼を包む。

爆発する激情。
叩きつけられる筆。
渾身の力でもって、綴られる文字。

ぴりぴりとした、
緊張感をはらんだ空気が場を包む。

不意に、
緩む場の空気。

一転して、
優しく、静かに、丁寧に運ばれる筆。

穏やかになる空気。
ゆっくりと、心を込めて綴られる文字。

おれがおれがの我を捨てて
おかげおかげの下で生きる

夕幻さんの祖父が、とても大切にしていた言葉。
祖父がこの世を去り、夕幻さんに託された言葉。

書を知らなかった時に書いた文字と、
夕幻さんの新たな人生の始まりの日に、
集まったひとたちの前で書かれた文字は、

比べものにならないほどに違っていた。
ひとつひとつの文字が持つ力が全く違う。

それが、なによりも書と出会う前と今との、彼のあり方の違いを語っていた。

素晴らしい時間だった。
素晴らしいひとだった。

出会えて良かった、ここに来てよかった、と思う。

書を書く、その姿が、こんなにも心を震わせる、素晴らしい時間をもたらしてくれるものだと初めて知った。
目の前で、そのひとの想いがあふれるその瞬間を、そのひとそのものが「書」という形で具現化する様を見ることができたのは、とても得難い体験だった。

書が素晴らしかったのも、彼が素晴らしかったのももちろんだけれど、この「場」そのものも素晴らしかった。

用意された食事は動物性の食材を使用していない、優しくあたたかな美味しいお料理で。
使われている食材も、大切に作られたこだわりのもの。

ひとつひとつ、本当に美味しかった。
心を込めて作られたんだなあって感じられて、それもまた嬉しかった。

食事をはじめ、受付、ホールスタッフ、この場を作り上げてくれたひとたちを、夕幻さんがひとりずつ、想いと感謝を込めて、丁寧に紹介していく。ひとりひとりのことが、本当に大好きだということが伝わって、それを聞いている時間もなんだか幸せだった。

どんなひとなのか。何を大切にしているのか。どんな素敵なことをしているひとなのか。
ひとりひとり、そのひとがどんなひとが伝わるような、そんな紹介。

この場の主役は形式的には自分だけれど、この場は自分と繋がるすべてのひとがいたからこそ、「あなた」がいたからこそ、あるのだと。
それが伝わってくるようだった。

ひとりひとりに想いを馳せなければ、名札は書けず。
祖父の想いを受け取らなければ、あの書はなかった。

そういうことなのだ。

彼のあり方に、感じ入った時間だった。
こんな風に生きていきたい、とも思った。

あの場で話したひとたち、ひとりひとりがまた素敵なひとたちばかりで、このひとたちのあたたかさ、やさしさが、あの場をよりいっそう素敵な空間にしてくれていた、と思う。

個人的に感動したのは、夕幻さんの誕生日を祝うサプライズ。
会場のオーナーさんの粋すぎるはからい。

思い出のいっぱい詰まったカボチャのケーキをひとかけすくって、息子から父へ。そして、父から息子へ。
それは、結婚式を見ているかのような感動的な瞬間。ひとつの家族の絆と繋がりを見たような。

父と息子が、こんな関係を築けるなんて。
様々な確執と葛藤を経て、こんなにも優しく、穏やかで愛にあふれた繋がりを保てるなんて。

この場に居合わせることが出来たっていうそれだけで、わたしはここに来た意味があったとすら思えた。
それほどに、とても幸せで、暖かくて、心震える瞬間だったのだ。

お父さんも、夕幻さんも、そして奥様も。
みんなみんなとても幸せそうに笑っていて。
本当に、本当に、これが幸せのひとつの形だなあって思ったのです。

本当に素敵な夜だった。

この夜のこのご縁を繋いでくれた友人に、この夜ともに過ごしてくれた友人に、心から、心から感謝します。

本当に本当にありがとう。

あの一言がなければ、わたしはここにいなかった。あの一言がわたしを素晴らしい世界の入り口に立たせてくれた。

感謝しかない、そう思う。


素敵な想いと繋がりで創り上げられた書。
ぜひ、それを感じに、その場にあふれる想いを受け取りに、行ってみてください。

そして、夕幻さんと、個展でご一緒するひとたちにとっての、大切な「あなた」のひとりになって、個展の空間を、「あなた」も創り上げてきてください。


遠藤夕幻 作品展
「あなたがいたからできたこと」

会期:7/26〜8/10
時間:10:00〜18:00
場所:マスミ東京ギャラリースペース
JR山手線 大塚駅より徒歩7分
http://www.masumi-j.com/access.html

HP
http://mutenkashodou.com/anata