やさしさを、かたちにする。
きっと、やさしさを形にしたら、こういう空間になるんだろう。
絵本の原画の個展。
それなのに、原画はあんまりなくて、子どもたちが喜んで、楽しく遊べるようなしかけばかり。
まるで、テーマパークみたいだった。
カラフルポップなトンネル。
ダンボールで作られた迷路。
発泡スチロールのつぶの海。
じぶんで作るおもちゃ工場。
そして。
のんびり背中を預けることができる、
おおきなおおきな「ママおばけ」。
あちこちに、手書きでのぶみさんからのメッセージや絵が描かれていた。
ただ絵を飾るより、きっと、とても時間も労力もかかっただろう。
トンネルも、迷路も、海も、おおきなママおばけも、この個展のためだけに作られたもの。
たくさんのアイデアをかたちにしようとしたときに、どれだけ大変かではなくて、本当に素敵な場所を作るにはどうしたらいいかって、それをただただ考えて作られたものたち。
ひとつひとつ、すべてのものが、
親子で来てくれるだろうみんなのために、
ワクワクして、喜んで、楽しかったー!!
って、そう感じて帰ってもらいたいって、
そんな想いに満ち溢れていた。
そのために原画のスペースがちょっぴりになってしまったとしても。
自分の絵本を読んでくれる人が、自分の描く世界が好きだと言ってくれる人が、とにかく楽しんで幸せになってくれる場所。
そんな場所を作りたかったんだろうなあって思う。
おとなのわたしたちのためには、のぶみさんの想いを綴ったビデオレターに手書きのメッセージ。
何百冊も絵本を描き、何年も売れない時代があったのぶみさんの、その生き方、あり方からまっすぐに届けられることばたちは、とてもとても深くて、素直で、心の奥の奥まで届く。
そんなのぶみさんが描いた絵本、「ママがおばけになっちゃった!」は悲しい話ではなくて、笑えて泣けて感動する、お母さんとかんたろうの愛の物語。
いつだって、なにがどうなったって、変わらずに、愛していると伝える物語。
いつもはあたりまえにあるそれを、もう一度見つめて、向き合って、自分たちの中に深くおさめていく。
絵本って、読むことによって命を吹き込まれるんだな、とそんなことにいまさら気付く。
絵本の中のことばたち。
愛してる、大切だと、それを読むことで、自分の中の愛してる、大切だというその気持ちがさらに輝く。
読んで、伝えて、読んだ自分の言葉を感じて、そうしてお互いに、もっともっと大切な存在になっていく。
心を込めて、目の前にいるこどもと、自分とに向き合って絵本を読む時間は、きっととても大切でかけがえのない時間なんだ。
絵本を読んでいる間、ママと、ぼくと、絵本の世界だけがそこにある。
表紙の原画。
ママとかんたろうがぎゅうっと抱き合う絵。
見ているだけで、あったかさと愛おしさが伝わってきて、じんわりと、身体の内側にあたたかいものが広がっていくようだった。
あまりにあたたかすぎて、込み上げてくるものを押しとどめるのがたいへんだった。
絵を見ているだけで、とてもあたたかくて、やさしい人なんだってことがわかる。
ずうっと見ていたくなるような、あたたかさ。
のぶみさんの絵はやさしくてかわいい絵。
でも、そんな絵を描く人がみんなやさしいわけではなくて。
そんな絵からも冷たさや迷いや悲しさを感じることがある。
原画も絵本もその人そのものを語る。
同じような物語がたくさんある中で、
のぶみさんの絵本が、心に届くのは、
のぶみさん自身が素敵なひとだから。
サイン会で、絵本にサインと絵を描く間、のぶみさんはひとりひとりと向き合って、ひとりひとりと丁寧にお話をしていた。
こどもたちと笑って話してじゃんけんして。
おとなたちの話にうなずいて感謝を伝えて。
ひとりひとりにとって、この時間が素敵なものになるように。
ひとりひとりと向き合って、ひとりひとりを大切にする、そのあり方がたまらなく素敵だなあと思って、ずうっと会話を聴いていた。
毎回違うことを話していて、毎回その人の話に耳を傾けていて、それを聴いているだけで優しい気持ちになれた。
完全に変なひとだったかもしれないけれど。
そしてちゃっかりわたしもサインをしてもらいました。
結婚して、もうすぐこどもが産まれる大好きな友人夫婦へのお祝いとして。
すぐには読み聞かせは出来ないだろうけど、いつか一緒に読んでもらえたらなあってそんなことを思いつつ。
そんなこんなで、ひとりで開場と同時に突入して、そこから4時間のんびりゆっくりまったりと、のぶみさんの空間を堪能しました。
とてもとても、素敵で幸せな時間でした。
会えてよかった、知れてよかった。
世の中には、素敵なひとがたくさんいる。
のぶみさんの大阪での個展は今日まででした。
会期中に2万人が来場しなければ失敗とみなされて、この規模の会場での個展の開催はとても難しくなる。
けれど、わたしが来場した時点で、その数は1万人すら遠かった。
もしかしたら、この場所での最初で最後になるかもしれない個展。
それでも、最後の最後まで、のぶみさんは自分にできる最大限のことをやる、とそう語ります。
何十人にもサインをして、腕が動かなくなっても笑顔を絶やすことはなく、最後のひとりにまできちんと向き合う。
最初に並んでくれた人と、最後に並んでくれた人。その間に違いはないから。
すべてのひとに、同じように、優しさをもって向き合いたいから。
そんな風に、腕が動かなくなって痺れてしまって、何度も失神しそうになっても、ひとりひとり、目の前にいるひとと向き合い続けたのぶみさん。
本日個展終了。来場者1万人。
絵本の売り上げは2000冊。
なんだか涙が出そうになった。
彼の想いが届いた。
彼の生き様がだれかの心を震わせた。
彼が、今目の前にいる人をただただ大切にした、その積み重ねがこの数字に表れているんだと。
そう思う。
わたしも彼のことを知ったのは一週間前だ。
絵本を読んだことすら、なかった。
でも、そんなことは関係なかった。
彼の生き様を見た。
想いを感じた。
それだけで十分だった。
2万人には届かなかったけど、でも、3日前の数字からすれば奇跡のよう。
ああ、奇跡は起こるんだ、想いは通じるんだ。
個展が終わってからも、彼はわたしたちに与えてくれる。
そのあり方で、生き様で、伝えてくれるんだ。
なんてありがたいんだろう。
なんてすばらしいんだろう。
こんな人がいるということが、同じ時代で出会えてということが、とても幸福なことだなあ、と思う。
のぶみさん、本当に、本当に、ありがとうございます!!
大阪の個展は終了しましたが、横浜で8月10日より個展が始まります。
こころ震えたら、ぜひ。
さよならママがおばけになっちゃった!
これが一番心に響いた絵でした。
ただ見ているだけで、心があたたかくなって、涙があふれそうになるような。
やさしい、愛おしい一枚。
「大好きなひとへ」
ここに来た、ひとりひとりが、大好きなひとへ、普段言えないことも素直に伝えるメッセージにあふれたあたたかい場所。
一枚一枚、とてもあたたかい、素直な愛情表現に満ちていて、それだけで幸せになる場所でした。
「ママがおばけになっちゃった!」は、お互いが「大好きなひとへ」の想いを綴った絵本なんだな、とここでも。
そんなのぶみさんの絵本はこちらから。